第2回クーラウ詣りツアー(6)

『ゴールデンデイズ・フェスティヴァル』(1998.9.4~20)

第二回クーラウ詣りツアー(1998年9月4日~9月22日)

ゲーゼ指揮『妖精の王の娘』初演の絵画
『ナポリ』第2幕カプリ島の青の洞窟の場の絵画

 

その1

その2

その3

その4

その5

その6

ツアー参加者の声


第二回クーラウ詣りツアー(その6)

二つの公演


『妖精の王の娘』ニルス・ゲーゼ作曲バレー『ナポリ』(ブルノンヴィル振り付け)

 今回の旅行での聴きものと観ものはニルス・ゲーゼ作曲『妖精の王の娘』とバレー『ナポリ』であった。『妖精の王の娘』は第一回のクーラウ詣りの時『妖精の丘』観劇の帰り道に行われていた夏至祭の催しで演奏されていた曲で、この中の有名なオルフの「バラード」が耳に残っていた。今でも私はこの曲を聴くと夏至祭の情景が目の当たりに浮かぶ。

 先ず『妖精の王の娘』について述べよう。

 時:1998年9月11日、演奏:デンマークラジオオーケストラ、会場:デンマーク放送局ホール、開演:20時。ツアーの第一陣の到着の翌日のこと。この日のプログラムは現代作曲家 Ib Nソrholm イブ・ノルホルムの作品『Elfin Mirror』(妖精の鏡)とゲーゼの『妖精の王の娘』の二本立てであった。時差ボケを押し殺して聴いている同行者の顔を見ながら私は余裕を持って聴いていた。私はその時すでに時差ボケを乗り越えていた。あとで聞いたら皆、眠かったと打ち明けた。日本時間では明け方の演奏会だったことになる。

 ゲーゼのElverskud『妖精の王の娘』は本当は誤訳である。英語に訳せば"Elfin Shot"となる。Elverはデンマーク語の妖精を意味し、Skudは英語のShotに当たる。発射、射撃、弾丸、一突き、企て、一服などの意味合いである。妖精が投げかける魔力に人間が惑わされる事を表している。この曲の内容は主人公の若者オルフが妖精の娘の魅力に惹かれ夜な夜な妖精の丘をさまよい妖精の娘と密会をする。妖精の娘と許嫁と間で葛藤するオルフ。それを知っている母親の苦悩。物語は結婚式の朝に妖精の丘から馬を走らせ急ぎ戻ったオルフが息絶えることで終わる。ツアーの資料で慌てて作成した歌詞の訳を掲載する。素晴らしい作品なので一聴をお勧めしたい。


Erverskud

妖精の王の娘 (試訳:石原利矩)

テキスト:クリスチャン・モルベック、カール・アンデルセン、ゴットリープ・シスビュエ
作曲:1853年
初演:1854年(音楽協会)

プロローグ

I. 合唱

オルフ殿は夕方になると乗馬をやめる。
霧は深く立ちこめ
香り立つ花も緑なす草も
静かにやすらぐ。

彼は頭を妖精の丘に横たえ
彼の瞼は重くなる。
そこに美しい二人の妖精の娘が通りかかり
彼にやさしく誘いかける。

一人は彼の頬をなで
もう一人がかれにささやく。
「起きなさい、美しい若者よ。
一緒に踊りましょう。」

彼女らはやさしく甘く歌をうたう。
草原の小川はその歌を聴く。
魚は青い水の中で跳ね回り。
鳥は森でさえずる。

もしも神が雄鳥を鳴かせなかったら
彼は妖精の歌が聞こえる妖精の丘に
留まっていたことでしょう。

第一部

合唱
ナイチンゲールが歌うとき、
太陽は青い海へ沈む。
明日はオルフ殿の結婚式で祝杯の宴が待っている。

オルフ
馬勒を付けよ、金の鎖で飾られた我が駒よ、
我が駒は最も速く最良の馬!
私の結婚式に招待したい客人が欠けている、
馬勒を付けよ、金の鎖で飾られた我が駒よ、
我が駒は最も速く最良の馬!

母親
私の息子よ、私の息子よ、日はすでに傾いている。
私の息子よ、私の息子よ、暗い闇は忍び寄っている!

オルフ
私の結婚式に招待したい客人が欠けている。

母親
私の息子よ!こんな夜遅く客人に何を望むのですか?

オルフ
急がねば、私は駆り立てられている、
ぐずぐずしてはいられない、
我が心は病んでいる、気持ちが重い、
朝の光のみがそれを癒す。

母親
私の息子よ、日はすでに傾いたのです!

合唱
ナイチンゲールが歌うとき
太陽は青い海へ沈む。
明日はオルフ殿の結婚式で祝杯の宴が待っている。

II. オルフのバラード

すがすがしい朝に草花を見る度に
我が心はこの国で一番美しい優しい花嫁を
あこがれる。

花や麦畑の群生する
牧場や沃野を駆け回る度に
私は金色の髪の青い眼差しを考える。

明るい星がまたたくもと
妖精の丘の灌木の間をさまよう度に
巻き毛の下の黒い瞳を考える。

敵に打ちのめされた深い傷は癒されるのだろうか、
我が心は引き裂かれ、この悩みはいつか終わるだろうか?

III

オルフ
馬勒を付けよ、金の鎖で飾られた我が駒よ、
我が駒は最も速く最良の馬。

母親
オルフ!ああ、妖精の丘に気を付けて!
魔女の出る時間に馬を走らせてはいけません。
夜に何かが起きるのです。
オルフ、魔女の出る時間に馬を走らせてはいけません!

オルフ
恐れることはありません、妖精の丘は静まっています!

母親
オルフ殿、お前も知っているように妖精の丘は心を脅かし危険なめにあうのですよ。
オルフ!魔女の出る時間に馬を走らせてはいけません!

オルフ
恐れることはありません、ただ霧が漂っているだけです。

母親
オルフ!妖精の丘には気をお付け。

オルフ
さあ、行くぞ、我が黒駒よ、さあ急げ
私の乱れた考えと共に
さあ、行くぞ、我が黒駒よ!

合唱
すでに黒駒は走り出し、彼は野原や荒野を駆け抜けた!
彼は家々を廻り婚礼の客に出席を請うた。
早朝に鐘を鳴らし歌と踊りで婚礼を祝いましょう!

第二部

IV

オルフ
夜よ、おお、なんと静かだろう!月だけが寂しい森を照らしている。
茂みで鳥がやさしく鳴いている、
しかし、あえて聴かないようにしよう!

あそこに誰かがいる。おや、消えてしまった!
変だ、空中で誰かが話しているのだろうか?
私の心はこの場所に縛り付けられてしまった。
甘い香りにまどろんでしまう!

V

妖精の娘たち
荒野を抜けて踊りましょう!

オルフ
歌っているのが聞こえる。私の心は捕らわれてしまった。
妖精の娘たちだ。不安から逃げろ!

妖精の娘たち
荒野を抜けて踊りましょう!

オルフ
あそこで四人が踊っている。あちらでは五人が踊っている。
妖精の王の娘が私を手招いている。

VI

妖精の王の娘
ようこそ、オルフ殿。ここで何をそんなに急いでいるの?
輪になって私と一緒に踊りましょう。

オルフ
私にはそんなことが許されない、わたしは絶対にしたくない。
明日は私の婚礼の日だ。

妖精の王の娘
私の母が月光でさらした絹のシャツを
あなたに差し上げましょう。

オルフ
甘い言葉で私をためさないでくれ、
どんなに踊りたくとも私は許されない。

妖精の王の娘
聞いて下さい、オルフ殿。踊りに加われば
銀の甲冑を差し上げましょう!

オルフ
私にはそんなことが許されない、わたしは絶対にしたくない。
明日は私の婚礼の日だ。

妖精の王の娘
もし私と踊らないのなら
疫病と病気にとりつかれることになるわ。

オルフ
ああ、神よ助け給え!彼女が私をつかまえた!
妖精の王の娘が私に危害を加える!

妖精の王の娘
私の手があなたを打つと
青ざめた頬から血が流れる。
オルフ殿、あなたは明日の朝死ぬのです!

オルフ
逃げろ、逃げろ、我が黒駒よ、我を助けよ!
逃げろ、さもないと私の婚礼のしとねは墓石となるだろう!

妖精の王の娘と妖精の娘たち
緋色の恋人のもとに駆け戻りなさい!
オルフ殿、明日の朝あなたは死ぬでしょう!

オルフ
逃げろ、逃げろ、我が黒駒よ、ここから逃げろ!
逃げろ!婚礼の客として死に神がついてくる!

第三部

VII. 朝の歌

合唱
東から太陽が昇る。
陽は雲を金色に染め
海や山の頂を通り
国や人々の上を通り過ぎる。

陽は遠くの楽園の
美しい砂浜からやってくる。
老いも若きもすべての人に命と光と喜びをもたらす。
神の太陽は天上の輝きで
地上を満たす。
痛みを和らげ悲しみの夜を癒す。

母親
私は家の戸のそばで待った。
すべての星影は色あせてしまった。
オルフがここを出かけてから
眠れなかった。
オルフ殿、夜中にどこへ行ってしまったの?
どんなにあなたは母に心配をかけさすの?

合唱
私たちは挽肉を贈りましょう。
私たちはワインを贈りましょう。

母親
夜のとばりから朝の陽の光が洩れはじめ
太陽が空に昇ると、不安と震えが高まってくる。
オルフ殿、夜中にどこへ行ってしまったの?
どんなにあなたは母に心配をかけさすの?

合唱
私たちは挽肉を贈りましょう。
私たちはワインを贈りましょう。 

母親
金の角笛を高らかに鳴らしながら、
向こうの麦畑から馬を走らせてくるのは誰?
オルフ殿だわ、私の思いが彼に翼を与えたのだわ。
まるで、鷹のように丘を駆け下りて来るわ。

合唱
彼は疾風のように家をめがけて駈けぬける、
彼の周りは石も火花も高く舞い上がり!
彼は疾風のように家をめがけて駈けぬける。

母親
オルフ殿、しっかりしなさい!

合唱
ダチョウの白い羽根飾りは何処へ?

母親
オルフ殿、息子よ、息子よ!

合唱
彼の盾は何処に置いてきたの?

母親
オルフ殿、しっかりしなさい!

合唱
金のあぶみから血がしたたり落ちている。
オルフ殿、しっかりしなさい!

IX

母親
お聞き、オルフ殿、私に言って、
どうしてそんなに顔が青ざめているの?

オルフ
青ざめているのは、
昨夜、妖精の王の所に行ったから!

母親
お聞き、オルフ殿、かわいい息子よ、
お前の花嫁になんと言ったら良いの?

オルフ
彼女に伝えて、
「彼は犬を連れて森に鹿を捕りに行ったと」

母親と合唱
お客様は何処に?
見に行きましょう。

オルフ
朝焼けの中でもう一人が私についてきた!

母親と合唱
その一人とは誰のことなの?

母親
その一人とは、息子よ、誰のことなの?

オルフ
私の心を掴まえた死に神だ!

母親と合唱
助けて下さい、慈悲深きキリスト様!
彼を悲しみと苦悩より救って下さい!

母親
彼はくずおれ
血の気が失せた!

母親と合唱
オルフ殿は死んだ!

エピローグ

合唱
だから若者達に忠告します、
荒野を駈ける者は妖精の丘に行って
月の光のもとでまどろもうとしてはなりません。
妖精の娘達の歌が聞こえる妖精の丘には
気をつけなさい、ああ、気をつけなさい!

 

 

 

デンマーク放送局ホール
ホール客席
ひときわ人目をひいた和服姿

 次にバレー『ナポリ』ついてお話ししよう。フェスティヴァルの期間中に3回(9/4,9/12,9/15)の公演が行われた。私は第一陣が到着する前の初日(9月4日)の公演をすでに観ていた。デンマークに到着したその日の夜のことだった。だから、皆が『妖精の王の娘』の演奏会で睡魔と戦ったことはよく理解できた。9/15はトーヴァルセン博物館の演奏会があったので9月12日の公演しか我々には可能性がなかったのである。会場:デンマーク王立劇場。開演:20時。音楽は当時の以下の文に見られるように何人かの作曲家の曲を集めた作品でつなげている。ブルノンヴィルとは当時、バレーの振り付け師としてヨーロッパ中に名を馳せた人である。舞台は絢爛豪華でパントマイム風な場面もあり物語の筋が良く理解できるものだった。参考までにバレーの解説書より以下の文を引用させていただいた。


Napoli

ナポリ (文:伊地知優子)

振付・台本:オーギュスト・ブルノンヴィル 

音楽:ホルガー・シモン・パウリ、エドヴァルト・ヘルステット、ニールス・W・ゲーゼ、ハンス・クリスチャン・リュンビュ 

装置:クリスチャン・フェルディナンド・クリステンセン 

初演:デンマーク王立バレエ団(オーギュスト・ブルノンヴィル、カロリーヌ・フィエルステッド)、

コペンハーゲン王立劇場、1842年3月29日

 『ラ・シルフィード』と並んでオーギュスト・ブルノンヴィルの代表作といわれ、現在もデンマーク王立バレエ団の代表的演目のひとつである。バレリーナがトウ・シューズをはくようになったことと、マイムを一、二ヶ所短縮したという相違点以外はブルノンヴィル振付演出当時のままの形で今も上演されている。ロマンティック・バレエの名作は、ブルノンヴィル作品以外はすべて後世の振付家や踊り手によって改変されてしまったので、百五十年を経た今日、ロマンティック・バレエを知る手がかりとしても貴重な作品である。

 デンマーク王立バレエ団の伝統である演劇とマイムと踊りの融合、そして「笑いと厳粛」「優美と楽しさ」を同時にあわせもつのがブルノンヴィル・バレエの基本である。

 一幕の大道芸の歌手によるユーモラスなマイムの名人芸にもみられるように、いわゆるバレエ用語の限られたマイムではなく、演劇のマイムがバレーのムーヴメントと連携し、あるいは独立してそれ自体がバレエのディヴェルティスマンに相当する扱いで演じられたりする。踊りの技術の高さ(いわゆるブルノンヴィル・テクニックの難しさ)に加えて、演劇面の修養も要求されるというブルノンヴィル作品の特質が、デンマーク王立バレエ団以外によるブルノンヴィル作品の全幕上演を難しくしているゆえんである。ただし、三幕のパ・ド・シスとタランテラはブルノンヴィル・ディヴェルティスマンとして、ニューヨーク・シティ・バレエ、キーロフほか多くのバレエ団でしばしば上演されている。とりわけタランテラは、タランテラの振付のなかでも最高のひとつといわれている。

 一幕。ナポリのサンタ・ルチア湾に面した広場。上手に聖母の像を祭る小さな堂が見える。夕方。屋台の物売りや子供たちで賑わっている。レモネード売りのペッポとマカロニ売りのジャコモは、美しいテレシーナに恋をしていて、母親のヴェロニカにしきりに自分を婿にと売りこんでいる。テレシーナは漁師のジェンナロと相愛の仲で、今しも彼が漁から帰ってくるのを待っている。やがてジェンナロが収穫の魚を抱えて登場。待ちかねたテレシーナと抱き合い、二人はヴェロニカに結婚の許可を求める。母親はしぶしぶ承知する。

 神父フラアンプロシオが登場。広場の人々から施物を集める。ジェンナロとテレシーナも献金、献物をする。

 ジャコモとペッポは魚を買いにきた美しい女性とジェンナロが怪しいと言いふらしてテレシーナとの仲を壊そうとするが、ジェンナロは一笑に付し、テレシーナの指に婚約指輪をはめる。愛を確認した二人は、雑踏を避けてボートで海へ出る。

 広場は大道芸人たちも加わりいよいよ賑わいを増すが、やがて雷が鳴りひびき、大雨となって嵐が港を襲う。人々は逃げまどい八方へ散ってゆく。ジェンナロはかろうじて岸へたどりつき、漁師仲間に救出される。が途中大波にのまれたテレシーナの行方は知れない。半狂乱でジェンナロを責めるヴェロニカ。人々は自分ひとり助かったジェンナロを冷たく見捨てて立ち去る。ひとり残され悲嘆にくれるジェンナロは聖母の足もとにひざまずき、祈る。そのときフラアンブロシオが通りかかって、決して望みを捨てぬようにとジェンナロを励ます。聖母のペンダントをお守りに与えられたジェンナロは神の加護を信じ、テレシーナを求めてひとり海に漕ぎだしてゆく。

 二幕。カプリ島の青の洞窟。ギターを抱えたまま気を失って倒れているテレシーナを水の妖精たちが介護している。洞窟を支配する海王ゴルフォは、テレシーナの美しさにひと目で魅せられる。テレシーナは海王に、ナポリへ帰してほしいと頼むがきき入れられず、魔法をかけられて妖精にされてしまう。

 そこへジェンナロのボートが入ってくる。妖精たちは姿を隠す。テレシーナのギターをみつけたジェンナロは、彼女が生きていることを確信し、必死で探しまわる。妖精たちが見かねてテレシーナを連れてくる。妖精なって人間の記憶をすべて失ったテレシーナはジェンナロが誰なのかわからない。婚約指輪やギターを指して二人の愛を思いださせようとするが効果がない。そのとき神父から授かったお守りを思い出したジェンナロは、聖母のペンダントに必死に祈りをこめる。と徐々に記憶が蘇ったテレシーナはついにジェンナロを認め、二人は堅く抱き合う。ジェンナロに執拗に襲いかかってくるゴルフォに、テレシーナは聖母のお守りをつきつける。するとたちまち魔奥を失ってゴルフォは二人を解放する。財宝を贈って二人を見送る傷心のゴルフォ。

 三幕。ナポリに近いモンテ・ヴィルジネス。人々が巡礼の祭典に集まってくる。そのなかに母親といるテレシーナを見つけて驚く人たち。ジェンナロもやってくる。テレシーナはジェンナロに救われたことを一同に説明するが、テレシーナが溺死したと信じている人々は、ジェンナロが魔法を使っていると思いこみ、恐れをなして逃げだす。

 そこにフラアンブロシオ神父がかけつけ、一同に、聖母の力によってジェンナロがテレシーナを救い出したいきさつを話すと、人々は素直にそれを信じるのであった。祝いの祭がくりひろげられ、友人たちの仕立てた箱車に乗った二人は、歓呼に送られながら幸福な新生活へと向かうのであった。


王立劇場客席
王立劇場客ステージ
王立劇場前終演後

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