3曲のロマンス顛末記 (シャーロック・ホームズ秘話)

誰がシャーロック・ホームズに?  
 2011年7月27日、私はアンドラーシュ・アドリアン氏と新宿の京王ホテルで面会をしました。氏とは過去に何度も会っていますが、親しくお話しをするのは初めての事でした。今回はIFKS新会員とIFKS理事長という立場で会ったのです。
 この時のことは会報12号で皆様にお知らせしたように、アドリアン氏はクーラウ生誕200年の際に行われたアシステンス教会のクーラウ墓前演奏、翌日のチボリコンサート及び翌年のミュンヘン、ケルンでのコンサートのことを詳しく話してくださいました。

アドリアン氏と筆者

 
 この日アドリアン氏は1冊の古い楽譜を私にプレゼントしてくれたのです。その楽譜は19世紀の出版譜の銅版印刷によるピアノ譜とフルート譜でした。
それには作曲家も出版社も書かれていないものでした。以下はそれぞれのページです。

ピアノ譜
フルート譜

ピアノ譜の1ページ目に鉛筆で
Kullhau?またはKillhan?またはKullhan? 3 Romance(s?) 
Flute-Piano

フルート譜の1ページ目に鉛筆(色鉛筆の部分あり)で
Kulhau 3 Romances
Flute-Piano 
と書かれていました。

ピアノ譜のサイン

 

フルート譜のサイン


 これは当時の持ち主の筆跡だと思われます。中古楽譜にはよく以前の持ち主のサインが残っているものがあります。出版社も作曲者も判らないものでした。アドリアン氏は「この楽譜は昔マルセーユの蚤の市で買ったものだが、いつ手に入れたかはっきりと覚えていない」ということでした。彼はこれが果たしてクーラウの作品かどうかを私に見せて確認をしたかったのでしょう。  
 19世紀の楽譜は現在とは異なり、ピアノ譜はピアノだけでソロパートは書かれていないのが普通のことです。この楽譜も同様に出版されたものでした。フルート譜には持ち主の筆跡による上記の Kulhau 3 Romances  Flute-Piano と書かれていますが両者を見比べてみると名前の個所がやや異なる書き方になっていました。ここでお気づきかも知れませんがKulhauは本来のKuhlauとスペルが違います。しかし、フランス人はそのように綴る場合があると言うことを、以前Dan Fogから聞いたことがありました。実際にCostallat社-Billaudot社のクーラウのTRIO Op.86はKULHAUと書かれて出版されています。サイン中のFluteのuの上に横棒があります。Flûteを表していると思われます。以前の持ち主は恐らくフランス人だったのでしょう。  
 この3曲のロマンスのメロディーは一見してクーラウ風であり和声もクーラウのスタイルでした。どこかで聞いたようなメロディだし見たような気もするし、でも即答できなく、アドリアン氏には追って調べて報告すると約束をして別れました。家に帰って楽譜や文献を調べましたが簡単に見つかるものではありませんでした。  
 この作曲家を突き止めるためアドリアン氏とメールでいろいろ話し合いましたがなかなか思うように探せず迷宮入りになりそうでした。我々の間で「シャーロック・ホームズが現れるといいですね」と話し合ったのもこんな時でした。ついにブスク氏に問い合わせることになり楽譜をスキャンしたものを送ったところ、たちどころに正解が帰って来ました。

Nr. 1 = Lied: ”An die Entfernte”, op. 19 nr.2
Nr. 2 = Lied: ”Reiz und Werth der Liebe”, op. 19 nr. 1
Nr. 3 = Die Feier des Wohlwollens, op. 36, 4. Satz: ”Wohlwollend schlage des Menschen Herz”
(siehe Fogs Katalog) (Dan Fogのカタログを見よ)

恐るべきブスク氏です。

ということでこの曲はクーラウの作品を基にした作品と言うことが判明しました。ただし、編曲者は依然として不明です。
自ら解決できなかったことは忸怩たる思いですが、不明な事柄が明らかになったことは嬉しいことです。
(独白)修行が足りん。

ここに全楽章を現代譜でアップしますのでご覧ください。
フルートをデジタル音でご紹介することはとても気が進まないのですが、どんな曲かをつかんで頂くことを念じて敢えてアップします。なお、繰り返し記号は省略して演奏しています。この編曲者はこの曲では原曲の調性と音域をそのままを用いています。演奏する場合はフルートが生きるようにアーティキュレーション、音域など手を加えても良いのではないかと思います。特に1曲目はスラーが殆ど付いてなかったので私の勝手な解釈で付け加えてしまっています。
それではお愉しみ下さい。

石原利矩・2012.4.25 記


QuickTime
MIDI

 


QuickTime
MIDI

 


QuickTime
MIDI

 


現代譜に書き換えています。
楽譜はpdfファイルでダウンロードできます。
Piano Score<クリック>  Flute Part<クリック