RONDO Op. 98のaとb (石原利矩)
クーラウ作曲、Op. 98「イントロダクションとロンド」にはaとbがある。aの「フルートとピアノのためのロンド」はフルーティストにとって非常にポピュラーなものとなっている。しかし、同じ曲でbのピアノ・ヴァージョンがあることはあまり知られていない。トラーネの「クーラウ伝記」の作品目録にはIntr. et Rond. concert. sur choer du <<Colporteur: ! Ah! quand il géle>>, für Pfte und Flöte. (Peters)とあり、その下に do. für Pfte (Peters)と書かれ特にaとbには分けていない(注:do = der Obige、上記(前述)のもの)。これをaとbに分類したのはDan Fogである。
ここでどちらが先に作曲されたものであるかは興味あることである。aの作曲年はわかっているが、bの作曲年は不明である。
aの出版年は1830年 (出版番号:2080)作曲年は1829年1月〜3月 (注:出版番号は楽譜の中に書かれている)
bの出版年は1834年 (出版番号:2460)作曲年は明確でない
出版社はいずれもPetersである。
ここで問題となるのは、果たしてbのヴァージョンがクーラウ自身のものかどうかである。
aに関してクーラウの手紙に登場するのは1829年1月20日にPetersに宛てた書簡の中に
前略---Fertige, zum Druck bestimmte Werke habe ich nicht liegen, doch werde ich jetzt anfangen mehrere beliebte Thema's für Flöte und Pianoforte (für beide Instrumente conzertierend) zu varieren;---後略
---出版用に出来上がった曲は私は持ち合わせていません。しかし、私はフルートとピアノのために愛好されている旋律のいくつかの変奏曲(両方の楽器は協奏的に奏されるような)に取りかかろうとしています。---
その後1829年3月14日のPeters宛ての手紙にOp. 94、98、99を送ったと書かれてる(ここで98というのはフルートとピアノのヴァージョンのこと)。約2ヶ月で3曲は仕上がったと言うことがわかる。
しかし、クーラウと出版社の往復書簡集にはピアノ・ヴァージョンのことは一切出てこない。
Dan Fogのカタログには
Op. 98b: RONDO IN E DUR FÜR KLAVIER etc. wie Op. 98a
Diese Version für Klavier solo vom Komponisten erschien 1834.
--- Op. 98bのピアノのためのロンドは Op. 98aと同様。
作曲家によるこのピアノソロのヴァージョンは1834年に出版された。---
とあるが、果たしてDan Fogが書いているように「クーラウ自身」のものかはクーラウに関する文献上では特定できない。Dan Fogはタイトルページ上の記述をそのまま用いたのであろう。
以下は両者のタイトルページである。両者ともcomposé par F. KUHLAUとなっているがbが本当にクーラウ自身のものかは、くどいようだが不明である。クーラウの死後に出版されたこと、Petersとの往復書簡にこのヴァージョンのことがどこにも出てこないことなどがその理由である。ブスク氏もこの点に関して???としている。Petersが両者を一様にOp. 98として出版していることも不思議なことである。
ここでaとbの楽譜を比較してみよう。
上段は98a
下段は98b
両者の寸法は変わらない。aにはあるがbでは省略されているパッセージも見られる。逆に言えばbには無いがaで付け加えられたとも言える。編曲する上でどちらの方が容易なことであろうか。こうして比較してみるとピアノ譜からフルートパートに移動したパッセージが良くわかる。そのことから「ピアノ譜を先に作曲し、その後でフルート&ピアノ譜を編曲した」と推量することも許されるだろう。もしもそうならばbがPetersから出版されたということは(クーラウの作曲した)bは何らかの理由でPetersの所有になったものであろう。
あるいはクーラウは98aしか作曲していなくて、Petersが誰か他の作曲家にピアノ・ソロヴァージョンを依頼したことも可能性としてあり得る。
両者を比較してあなたはどのようにお考えになるだろうか?
点線内はピアノソロヴァージョンには無いフレーズである。ロンド部分の点線内はオンスローのピアノスコアに無いパッセージで、クーラウの創意によるもである。勿論イントロダクションの部分は全てクーラウの創意で作曲されている。
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第42小節のフルートとピアノのリズムの不整合は演奏上、気になる箇所である。
第193小節はオンスローのピアノスコアではaisとなっている。
オンスローのオペラ「行商人」とクーラウ作品との関わり合いは他の機会に述べたいと思う。
この小論はaとbの楽譜上の相違を見ていただくことを主眼にしている。
石原 利矩
2016.2.1