2012 年にソナタ曲集を出版したときに、ソナチネを含めるかが問題となりました。しかし、
ソナチネはいろいろな出版社から出版されていて、求めようとすれば簡単に入手できる状況
でした。そこで1 ~ 4 巻のIFKS 版は絶版になっているものを中心に出版することにしました。
そして今回の第5 巻で2 手用のソナタ/ ソナチネ作品が全て出版されたことになります。
クーラウ/ピアノ・ソナチネとやさしいソナタ曲集 5 にはOp.20(3 曲)、55(6 曲),
59(3曲),60(3 曲),88(4 曲)が含まれます。
クーラウのソナタとソナチネの分岐点は非常に曖昧です。クーラウのソナチネと言われるも
のはOp.20、55、88 の3 つの曲集です。この中でも、長さ、難易度、規模( 楽章の数) は
一律ではありません。クーラウのソナタは初期の作品の大規模なものから中期、後期にかけて
小規模になっていくのです。Op.20 は小規模に移行する最初の作品です。しかし、1819 年
10 月13 日付けのブライトコップフ&ヘルテル社に作品と一緒に送った手紙の中で、クーラ
ウ自身はOp.20 を小さいソナタ(kleine Sonate)と呼んでいます。
Op.55 から教育的配慮が施されています。それは運指付きだからです。そして次の作品Op.59
(やさしくて華麗なSonate)にはOp.55 に続く作品と位置づけ、所々に運指が付けられてい
ます。その後に続くOp.60(難しくないSonate)はOp.55 とOp.59 に続く作品と位置づけら
れていて、この3 作品の統一感を意図しています。しかし、Op.60 には運指は全く付けられ
ていません。
1827 年のある日、クーラウは出版社ローセに以前のOp.55 のような作品で至急何かバガ
テル風(Bagatelle= ピアノのための性格的小品、「ちょっとしたもの」という意味もある)な
ものを作曲してくれないかと頼まれました。その時、クーラウはオペラ『フーゴとアーデル
ハイド』を作曲している時だったのですが、一晩の内にOp.88の4曲のソナチネを仕上げてロー
セに渡しました。これはOp.55 のように運指付きとなっています。
本曲集はクーラウの運指付きということと初版を原典として編集していることに特色があ
ります。1 冊の中に上記の5 作品がまとまっている楽譜も初めてのことです。 |