序曲 |
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前半 |
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「ようこそお出で下さいました。本日は第二回クーラウフェスティバル『妖精の丘』に ご来場頂きまして誠にありがとうございます。皆様、ご存知の通り…、
ご存知でない方もいらっしゃるかもしれませんが、私共、クーラウ協会は、 作曲家フリードリヒ・クーラウを研究・紹介する為に設立した国際的な協会でございます。 決して、(手で十字を切り)こっちの教会ではございません。
クーラウは1786年に生まれ、ドイツ人でありながら、 ナポレオン戦争の動乱を避け、デンマークに移住した不遇の作曲家であり、 四十六歳でその短い生涯を遂げるまで、五百曲以上の曲を残します。 ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、クーラウが作曲した ピアノの為のソナチネは、とても有名な曲なんですね。 また、フルートの作品を数多く作曲し、作風も似ていることから 「フルートのベートーヴェン」と呼ばれることもあります。
詳しく知りたい方は是非、我が協会のホームページをご覧下さいませ。 |
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さて、この作品『妖精の丘』は1828年、デンマーク王家の婚礼の際に 上演された作品です。王家の結婚式で舞台を上演。さすがヨーロッパですね。
ヨハン・ルーズヴィ・ハイベアという当時、有名な劇作家が脚本を担当しております。この戯曲は公募で選ばれ、作曲でクーラウに白羽の矢が当たったのです。
それ以来、この作品はデンマークでは最も有名な国民劇として親しまれています。
今回はこの『妖精の丘』を朗読劇ではありますが、日本で初めて上演致します。
これまで、皆さまがあまり経験されたことがないような空間を 味わって頂けることと思っています。どうぞごゆっくりとご覧下さいませ」
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オーケストラ:
Nr. 1 Introduction |
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ナレーター「さて、ここはデンマーク、トリュゲヴェレ領内のとある場所です。 向こうにはステウンス領が見えます。両地の境界には川があり、 粗末な木の橋が架かってます。対岸には大きなハンノ木。 そしてこちら側には一軒の小さな農家。庭にはテーブルとベンチが置いてあります。
さて、ここで最初の登場人物。カーンが現れます」 |
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Nr. 2 Romance:
1夏の夕べに丘に来て、泉の水で潤した娘、気をつけなさい。妖精の王を!
(2緑の丘から霧が出て、瞬く間にかき消えた娘、気をつけなさい。妖精の王を!)
(3白衣をまとう妖精が踊り、歌い、輪を描く娘、気をつけなさい。妖精の王を!)
4見る間に三人の妖精は、一つになったり離れたり娘、気をつけなさい。妖精の王を!
5輪の中に立つ妖精の王、光る指輪、抜き取りぬ娘、気をつけなさい。妖精の王を!
6我が手は指輪を掴んだが、我が身は王に絡められ娘、気をつけなさい。妖精の王を!
7今やこの身は囚われて、花嫁としてかしずきぬ娘、気をつけなさい。妖精の王を!
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モーウンス「お早う!カーン!早くから精が出るね」
カーン「ああそうさ。今日はお祝いの日だもの」
モーウンス「それにしても、どうしていつもそんなに悲しい歌ばかり歌うんだい?」
カーン「悲しいだって?陽気な歌だっていくらでも歌えるさ |
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Nr. 3 Romance:
1丘の野辺に横たわり、やがて深くまどろむそこに二人の娘が歌いながら近づく、不思議な踊り
2 踊りはいつもの如く、激しい足並みとなり、小川の小魚達も共にひれを震わす、不思議な踊り
3優しくしたり、脅したり、その魂を抜かれ、雄鶏の声が聞こえると、魔法は解け、消え去る、不思議な踊り
4それゆえ皆、若者よ、丘へ行くことは、そして、ここで眠ること、してはいけないことよ、不思議な踊り
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ナレーター「ここで二人の男が登場します。二人共、品のよい旅姿。
そう、彼はデンマーク国王のクリスチャン四世です。…朗読劇ですので。 これが演劇となりますと、この顔では中々配役するのは難しいかしれませんが、 彼が…、そうデンマーク国王のクリスチャン四世です。
そしてもう一人のイケメンの男。彼は国王の従臣フレミングです。橋の上から国王に この地の説明をしていましたが途中でカーンの歌に気付き、二人、聞き入っていました。
さ、二人の会話を聞いてみましょう」
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フレミング「陛下、あの女はこの土地に古くから伝わる歌を全て歌える生き字引でございます。
彼女の唇には今も古き歌の花が咲き、彼女が死ねば、 ここの民族の詩も消え失せてしまうのです 」
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クリスチャン4世「わしはあの歌を気に入ったぞ。きっと農民達が豊作を願って作った歌じゃ。
これも、この地に残る祖国の宝物だ。しかし、あの女は何者なのか?」
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カーン「今晩、エッベセン様がホイストルプでエリーサベトお嬢様と ご結婚なさいますでしょ。百姓達は今日は一日中お祝いのお祭り。 夕刻には二マイルもある道を、花婿を花嫁の家までお見送り致しますのよ」
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エッベセン「アラッ!何ということだ!我が国王陛下が、この地を お訪ね下さるとは。このような光栄、夢にも思っておりません。 ご到着の場にも居合わせぬ無礼、どうかお許し下さい」
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アグネーテ「あの二人の殿方はどなたでしょう?彼の後に着いて行ったわ。 そうだ!二人ともホイストルプのお祝いに行くのにちがいない。 ああ!お祝い!そう思っただけで胸が張り裂けてしまいそう!」
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エッベセン「アグネーテ、私はこれまで君に接吻を乞うたことがあっただろうか? 今、私が自らの報酬として、それを求めても、君は怒らないか?」
アグネーテ「怒るものですか?でも、それは、あなたが約束のご返事をお持ち帰りに なった時にして」
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Nr. 4 農民達の合唱:
1急げ、祝いの踊りと歌を、笛の音、響き、我らを招く、急げ宴に
2夜のとばりが村や谷間に、茂みのうちで妖精の王様、耳をすますよ
3急げ館に、喜び伝え、諸人こぞりて打ち鳴らせよ、その盃を
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ナレーター「ここはホイストルプ城のとある小部屋。これまでと違って豪華な部屋。 そう。ここは今晩の花嫁。エリーサベトの部屋です」
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ナレーター「そして、何故かここにいるのは、この城で長い間執事を務めるビヨーンという男。 神経質というか落ち着きがないというか小心者というか…。 ん、窓の外の誰かに向かって何か話しているようです」
ビョーン「静かに、静かに!そんな大声で出しては駄目だ。壁に耳あり、とよく言うでしょう。 (大声で)何?私が黙って秘密を守っていられるかって! …ああ、何て不躾な質問だ。私は三十三年間ここホイストルプで執事をしてきた男だ。 その間、ご夫人や旦那様方、お嬢様方、その他…沢山の秘密を全てを守って来た。全てだ! わしは秘密の塊みたいな人間だが、一言だって口を滑らしたことはなかったし、 これからもあるはずがない!…何だって?声が大き過ぎるって? ・・・
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エリーサベト「嘘!お前は嘘をついている。私を騙してるのです。 お前の心配というのはもっと大事な、別のこと。だって顔に現れているもの」
ビョーン「お、お嬢様!何を仰います? 私が自分の顔を意のままに出来ぬと仰るのですか? 私は物心つかぬうちから、顔の皺一つに至るまで、 思いのままにする訓練を積んできたのですよ」
エリーサベト「じゃあ身になってないのね。お前の意のままには全くなってないわ」
ビョーン「何と言うことを!そのお言葉で、私は体中震え上がっております」
エリーサベト「早く言っておしまい。お前の顔は、私に話したいと言ってるわ」
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ヴァルケンドーフ「…ったく。気性の激しい、強情な娘だよ。ビョーン、お前は娘に何か気づかれたりしなかっただろうな?」 |
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ナレーター「…なるほど。この物語の複雑な人間関係の全貌が見えて来ましたね。 皆さん復習しますよ。今晩、結婚式を挙げるエリーサベトの母親は 彼女が生まれてすぐに亡くなってるんですね。本当の父親も亡くなっている。
因みに父の名前はイエンス・ムンク。デンマークでは著名な探検家です。 カナダには彼の名前に因んだ島もあるんですよ。 国王クリスチャン四世は父母を失ったエリーサベトを憐れみ、代父となります。 そしてホイストルプの領主である、ヴァルケンドーフに彼女を預け、 そのヴァルケンドーフが育ての親として彼女は育ったんですね。 そして彼女は今晩、トリュゲヴェレ国王の代官、エッベセンと結婚式を挙げる…。
ここからが問題です。
エッベセンは先程ご覧になった様に農夫の娘、アグネーテと恋仲です。 彼はアグネーテにエリーサベトとの結婚解消をお願いすることを約束をする…。 一方、エリーサベトの方も実は国王の従臣フレミングと熱愛中。 うーん。ややこしいですねー。お互いの相手をとっかえれば、 全てうまくいくと思われますが、そこは大人の事情が絡んでます。 国王やヴァルケンドーフがそんなことを許すとも思えません。 あー、悲しや恋物語。さ、この先、どんな展開が待っているのでしょう。
あっ、エリーサベトがビヨーンとの約束も守れずに歌う様です。 ったく女心とは我慢ちゅうことが出来ないのかねぇ…」
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Nr. 5:Romance
1 今や夏の日は延びて、小鳥は歌い巣づくりさえずり交わす森陰
2愛の神は哀れみて、羽ばたく羽に手を伸べ幸せ掴め小鳥よ
エリーサベト、語る。
エリーサベト「そうなんだわ!もし彼が窓べで羽ばたいているのなら、私は彼が 入って来るよう誘わなくては!まだ歌を止めてはいけないわ!」
Nr. 6:Romance
1緑なす森影にバラは咲き乱れて、ツグミの歌に立ち止る、一人の若い騎士
2鳥の声、耳をすまし物思いにふける、剣に身をもたせかけ、真夏の日を浴びる
3窓を開け歌う乙女。愛の使いに寄せ小鳥も共に歌うよ、明るい夏の午後
4若者に芽生える愛、美しき乙女よ、我が望みを叶えてよ、燃える夏の午後」
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フレミング「僕がどれほど長く君を愛しているかは知っているだろう。 それなのに君は何度、僕の希望をはぐらかしたことか? こんなことを言うのを許してくれ、しかしここでは真実だけが問題なのだ。 王は結婚式の日取りを急に今晩と定めたのだ。いいかい?今晩なのだ、エリーサベト。 君はどうするつもりなのだ?もう僕を愛してはいないのか?
国王だけでなく、君の心までエッベセンを選んでしまったのか?
さあ言ってくれ!答えてくれ!僕の苦悩を静めてくれ!」 |
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ナレーター「さあ来ましたよー。エッベセン。しかし、まさかこのタイミングとは。 好きな異性が絡むと男も女も必死ですね。だけどフレミングはみっともなかった。格好悪っ!さてさて、エリーサベトの作戦とは?あーあ、どうなることやら」 |
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エッベセン「フレミング!どうして、ここにいるんだ?お前ローセンクランツの元へ 行ったんじゃなかったのか?」
フレミング「エッベセン!お前こそ、国王の側にいるはずだろ?(独り言で)こいつ 彼女を愛してるんだ!彼女もこいつを愛してるんだ」 |
ナレーター「最後は男二人で鉢合わせですか。しかし二人とも正直に話せば、 全てが丸く収まるだろうに。男のプライドって、時に邪魔になるもんですなぁ…。
さ、場所はカーンの家に戻ります。…が、その前に二十分間の休憩でございます」 |