フェスティバルの「ムジカノーヴァ」の批評
ムジカノーヴァ1月号の批評です。
クーラウ・フェスティバル2010 インターナショナル・フリードリヒ・クー ラウ協会(理事長:石原利矩)の主催する 「クーラワ・フェスティバル」は、これまで 彼のオペラをはじめ演奏会や楽譜・書籍の出 版、CD&DVDの発売などさまざまな活動 を行ってきている。クーラウといえばピアノ の世界ではソナチネの作曲家として知られて いるに過ぎないが、彼の名はむしろ数多くの すぐれたフルート作品で知られている。オペ ラ「ルル」も先年、東京文化会館で上演され て注目されたし、とりわけフルート界ではク ーラウは好んで取り上げられる作曲家の一人 である。今回2日間にわたって開催されたフ ェスティヴァルの第2日目には彼の珍しいピ アノ曲と歌曲が取り上げられた。 この日演奏したのは3人のピアニスト。最 初は垂野鮎子の演奏で(ベートーヴェンの歌 曲によるロンドレット)作品117。ベートー ヴェンとは10歳ほど違うこの作曲家のいか にも古典的なスタイルは、しかし均整の取れ た美しさを持つ。そんな音の相貌を垂野のピ アノは丁寧に描き上げて見せた。次が清水美 保による〈コペンハーゲンの魅力〉作品92。 華麗な序奏の後、何度も現れる二短調の主要 主題と、その間に当時のはやり歌や有名なメ ロディを置いたロンドで、これも楽しいステ ージとして耳に残った。最後が鷲宮美幸によ る《ピアノ・ソナタ》作品8a。この本格的 なソナタは構成的にも技巧的にもしっかりし た作品。それだけに鷲宮美幸のピアノは作品 の細郎にまで細かな神経を注いでいたのが印 象に残る。そんな3人の演奏から、ソナチネ の学習的な面をもつクーラウとは違った、も う一人のクーラウを楽しんだ。(10月10日、 サントリーホール小ホール)河原亨 |
2010.12.21