オペラ『魔法の竪琴』演奏会形式批評/新聞報道

音楽の友12月号

フリードリヒ・クーラウ:歌劇《魔法の竪琴》
ドイツ生まれだがデンマークで活躍、ベートーヴェンとも親交があったクーラウ、その幻のオペラの蘇演だ。ピアノの教材で知られ、オペラも5曲ほどあるようだが、1817年に製作された。この《魔法の竪琴》は3回で打ち切られ、今回が4回目であるとのこと。これは指揮者である石原利矩の熱意によるもので、まず感謝したい(ただし急病のため、当日は副指揮者の富平恭平が指揮)。今回は石鍋多加史のナレーションで進める演奏会形式だが、バゲセンの台本による物語は古代ギリシャが舞台。オルフェウスから授かった竪琴を奏する楽人テルパンデルが、その大事な竪琴を燃やしてまでして、王女ディオネを救い、結ばれるというものだ。
 音楽は全体に平明なものだが、第1幕で海賊たちが王女を襲う場面、第2幕で王女とテルパンデルが歌う二重唱などは聴き応えがある。歌手陣では王女を演じた岸七美子、その侍女で高音域も駆使した鵜木絵里、テルパンデルを歌った鈴木准、武将スコパス役の若林勉などが光った。トリトンアンサンブルによるオケはいま1つの感があったが、竪琴を受け持つ井上久美子のハープが見事。合唱は男声が弱く少女2人によるバレエも訴えがもう一つ。10月7日・第一生命ホール (三善清達)

 


音楽現代12月号

クーラウ/オペラ「魔法の竪琴」
クーラウは一部作品が知られながら劇場作品は埋もれた。石原利矩はその掘り起こしに力を注ぎ、「魔法の竪琴」188年振りの再演を、手書き譜の写しを基に2年で漕ぎ付けた。それも驚きながら、石原の情熱に応えた歌手たちも見事。ことにソプラノ岸七美子は冒頭第3曲からクーラウの迫力ある旋律線を浮き彫りにした。テノール鈴木准は第13曲、クーラウの美しいハープ旋律とともに美声で「竪琴」への思い入れを歌にする。続く両者の二重唱は圧巻。それに触発されたように鵜木絵里も第16曲、コロラトゥーラで存在感を示す。若林勉には感情の変化が歌に欲しかったが、久岡昇、黒木純がそれぞれバリトン、バスで音楽的にも物語の上でも彩を添える。
そのほかに、未知の作品をここまで引き付けたのは福井信子の台本翻訳と、ナレーション石鍋多加史の巧みなる話芸の賜物である。C.ヴィレッジ・シンガーズの合唱もドラマティックだ。指揮・富平恭平、管弦楽トリトンアンサンブル。(10月7日。第一生命ホール)(宮沢昭男)

 


週間オン・ステージ新聞(10月26日号)
オペラ評
作品の魅力を伝えて健闘した
F.クーラウのオペラ「魔法の竪琴」

 フリードリヒ・クーラウといえば、ピアノレッスンのソナチネでお世話になった人が多いのではないだろうか。ドイツ生まれでデンマークに渡り、十九世紀初頭のデンマークで旺盛な活動を行ったこの作曲家は、実は九曲にもおよぶオペラを残している。インターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会の主催によるオペラ《魔法の竪琴》(演奏会形式)は、指揮者の交代などのアクシデントがあったものの、かなり練り上げられた楽しめる公演だった。(十月七日、第一生命ホール)。
 今回は日本語訳を用い、石鍋多加史によるナレーションつきの上演となった。原曲のイメージと少し乖離した面が無いわけではなかったが、わかりやすさを優先した妥当な選択だったと思う。
 ハープ(演奏・・井上久美子)の典雅な調べで音楽は始まり、エーゲ海にのぞむスキュロス島が舞台。王パンディオンの娘ディオネは、武将スコパスとの結婚を勧められているが乗り気ではない。海賊に誘拐されそうになったところを助けてくれた、竪琴を弾く楽人テルパンデルに心を奪われてしまう。王はディオネへの愛の捧げものの大きさで、結婚相手を決めると提案する。船遊びをしていて波にさらわれたディオネを助けようと、共に沖に流されたテルパンデル。たどり着いた島で、瀕死のディオネを助けようと、大切な竪琴を砕き、火を起こすのだった。こうして大切な楽器を犠牲にしてディオネを助けたテルパンデルこそ、娘の夫にふさわしいと王はたたえ、はれやかなフィナーレとなる。
 石原利矩にかわりタクトを振った富平恭平によるトリトンアンサンブルの演奏は、時折、音の立ち上がりの鈍さがやや気になり、アンサンブルに少々精彩を欠いた場面があったものの、総じて大変健闘しており、作品の魅力を伝えることに貢献していた。
 ディオネを歌った岸七美子は、豊かな声量が魅力の新鋭。今後は持ち前の個性的な声をいかし、さらに細部の練り上げを望みたい。ディオネの侍女ミュリスは、昨今上り調子の鵜木絵里がつとめた。ぴんと張りつめた気品も感じさせるその歌唱は、印象深かった。テルパンデルの鈴木准は、とりわけ第二幕からぐっと調子が出てきたようで、ディオネとの愛のデュオなどで感情のこもった歌唱を聴かせた。石鍋によるメリハリのある語りも、物語の理解を大いに助けていたのは間違いない。
 今回は、フランス風のバレエを組み入れるというクーラウの意図を尊重し、谷桃子バレエ団の若手二人が舞台の前方で踊りを披露。オペラの雰囲気をもり立てていたが、もう少し衣装に工夫があればさらに良かったと思う。(伊藤制子)

 

オペラ『魔法の竪琴』演奏会形式の新聞告知

毎日新聞/オペラ『魔法の竪琴』記事掲載の紹介
2007年7月17日・夕刊


静岡新聞/オペラ『魔法の竪琴』記事掲載の紹介
2007年7月30日・夕刊