クーラウの諧謔?


作品126はクーラウの遺作として、没後(1833年)ローセ、ファランクから共同出版されました。

DIVERTISSEMENT
POUR LE
Pianoforte
sur des thémes favoris de Mozart
composé par
F. KUHLAU
Oevre 126---Propriété des Editeurs---Price 12gl
Copenhague chez C. C. Lose
Paris chez A. Farrenc

ディヴェルティメント
ピアノフォルテのための
愛好されたモーツァルトの主題による
作曲 / F.クーラウ
作品126---著作権編集者にあり----価格:12グロッシェン
コペンハーゲン / C. C. ローセ
パリ / A.ファランク


 この作品は「ディヴェルティメント」となっていますが、構成は5つのモーツァルトのメロディが順に現れそれぞれが変奏されるものです。ちょうど作品25が複数のスエーデンの民謡を用いて変奏している構成と似ています。IFKSの次期プロジェクト「クーラウ / ピアノ変奏曲全集」の中に取り入れるべきかを検討した結果、作品25にならってこの曲も含めることに致しました。
 不思議なことに、この中の5つのメロディが全てモーツァルトの作品でないことが挙げられます。1曲だけ別の作曲家の作品が入っているのです。このことから次のことが推論できます。
1. クーラウが知らずに(モーツァルトの作品と考え)用いた
2. クーラウは他の作曲家の作品を意図的に用いた

 クーラウはモーツァルトを崇拝しその作品を良く研究しています。知らずに用いているということは、恐らく無いだろうとはブスク氏の意見です。1番目の「クーラウが知らずに用いた」とは考えにくいのです。
 ならば、2番目の「他の作曲家の作品を意図的に用いた」理由は何だったのでしょうか?

 かつて、フリッツ・クライスラーが知ったかぶりの愛好家、 鼻っぱしの強い批評家を欺くために「べートーヴェンの主題によるロンディーノ」を出版したのは有名な話です。あの素敵な旋律がべートーヴェンのどの作品にあるのか、一生懸命に探した 愛好家、批評家は見つけ出すことができず、結局クライスラーにだまされたことが判明したのです。べートーヴェンとつければすぐにも有り難がる輩を揶揄することでクライスラーはざぞ快哉を叫んだことでしょう。

 これと同様な考えがクーラウの心に生まれなかったとは言いきれません。常日頃、クーラウは出版社の横暴に泣かされていました。ミスプリは沢山あるし、やぶにらみの批評はするし、作曲料は値切るし、おまけに作品の長さまで口を挟むなど・・・ひとつ冗談に出版社の連中をからかってやろうとクーラウが考えたかもしれないのです。さらに、この作品が生前出版されなかった理由をクーラウの「きまじめさ」に起因するものと考えることもできるのです。これを出版して世の中を欺くことをクーラウは躊躇し、道義に反するとして彼が出版を差し控えたとも解釈できるのです。

 さあ、あなたもクーラウにからかわれてみたいですか?そんな方はこのページへ<クリック>してみましょう。どの部分のメロディがモーツァルトとのものでないかがお分かりの方はご回答をお寄せください。
 (石原利矩)


弟子Keyperの筆写譜より

Uploaded 5. 12. 2013