フリードリヒ・ヒヤミズ (石原利矩)

「フリードリヒ・冷水」

 夏になるとクーラウがもてはやされます。人々はクーラウの話題でにぎやかです。こんなにクーラウも有名になったのかとびっくりするくらいですが、よく聞いてみるとそれはクーラー(冷房機)のことなのです。しかし、クーラウとクーラーは全く関係がないわけではありません。

 ベートーヴェンが1825年にバーデンで作曲したカノンはクーラウの名前をもじったものでした。題して「kühl nicht lau」、日本語に翻訳すれば「冷やしなさい、生ぬるくなく」という意味です。最初の言葉"kühl"はドイツ語の"kühlen"「冷やす」言う動詞の命令形です。lauは「生ぬるい」というドイツ語の形容詞ですが、ベートーヴェンはkuhllauを使うためlを二度用いています。

 Kuhlauという名前は2つの単語が合成されたものと考えられます。

それは二通りに解釈できます。
1. Kuhl + au
2. Kuh + lau
です。

 ベートーヴェンがもじったものは1と2を混ぜたものと言うことができます。

 それでは先ず第1のKuhl+auから考察してみます。
 ドイツ語ではkuhlは「冷たい、冷やす--」の意味があります。
 それではauにはどういう意味があるのでしょうか。
 一つは「痛い」時に発する感嘆詞です。ドイツ人は何かにぶつかったりして痛みを覚えたとき「アウッ」と言います。「冷たくて痛い」。例えば氷のかけらにぶつかって痛いときには「クーラウッ」と叫べばピッタリです。しかし、ドイツ人が理解してくれるかどうかは保証の限りではありませんが---。
 もう一つは(この方が現実味があります)、
 auaueeが弱まったものと辞書にあります。aueは低地、河川地帯、湿地帯、島などの意味があります。ラテン語のaquaとも語源的関係があります。

 接尾語にauを用いた地名がヨーロッパには沢山あります。Grünau, Ilmenau, Lindau, Meinau, Nassau, Rheinau, Schönau,Wetterau, Glogau, Spandau, などです。
 その他有名な都市に
 Breslau (ブレスラウ):オーダー河畔のポーランドの都市
  Krakau (クラカウ):ヴィスラ河畔のポーランドの都市
  Passau (パッサウ):ドナウ、イン、イルツの三つの川の合流点にある都市
 地名ではありませんが、Donau (ドナウ):ドナウ川などもその一つでしょう。

 いずれも川(水)に関係していることが分かります。

 クーラウの父方の祖父の名前はNiemegk(ニーメック)の教会の記録書に「Kuhlo」と記載されています。oはデンマーク語のø(島)という言葉と関係があります。ということは1番目の区切り方の方が順当に思われます。

 以上のことからKuhlauという名前を日本語に翻訳すると
 「冷水」ひやみず
 「冷川」ひやかわ あるいは「寒川」さむかわ
 「冷島」ひやじま あるいは「寒島」さむじま
 となるのでしょうか。

 さて、第2番目の区切り方Kuh+lauであったらクーラウの名前は日本語で何となるでしょう。

 ドイツ語でKuhは雄牛と言う意味です。lauは生温い(水、コーヒーなど)、程良く暖かな(風、夜など)、煮え切らない(人、態度、約束など)と言う意味があります。

 以上のことからKuhlauという名前を日本語に翻訳すると
 「鈍牛」どんぎゅう
 「温牛」おんぎゅう
 「暖牛」だんぎゅう
 となってしまいます。

 我らのクーラウさんにとってあまり美しい名前ではありませんね。

 名訳があったらご提案を!


おまけ

 フランスの出版楽譜に「Kulhau」と書かれたものがあります。

 現在ライプツィッヒの電話帳に一人だけKuhlauを名乗る人が記載されています。

 クーラウの経済状態のことを考えると日本語の「苦労」、「暗い」に何か類似性が有るように思えてなりません。

 ハワイに「クーラウ」という名前の楯状火山があるそうです。