クーラウの作品番号のaとb

クーラウのop.ナンバーにはaとbが付いたものがあります。

これは本人が付けたものでなく「クーラウ伝記」(1875年・デンマーク語)を書いたカール・トラーネが、巻末にある作品目録を編纂したときに付けたものです。テーマティッシュ・カタログ(1977年)を出版したDan Fogはそれを踏襲しました。aとbが付いたものには若い番号に多く見られます。何を基準にしてトラーネが分類・命名したかは不明です。

  作曲年 出版年 ページ数 曲種
5a ca.1811-12 1812 23 ピアノソナタ
5b vor 1806 ca. 1806-07 8 歌曲
6a ca. 1811 ca. 1812 47 ピアノソナタ(3曲)
6b 1811-12 1812 11+5 ピアノソナタ+ヴァイオリンad libitum
8a ca. 1812 1814 31 ピアノソナタ
8b ca. 1810 1810 11 ピアノソナタ(4手連弾)
10a ca. 1813 1814 19+16 フルート二重奏曲
10b vor 1810 um 1810 29 フルートソロ曲
11a 1812 1814 22 歌曲
11b ca. 1810 1810 9 歌曲
72a ca. 1826 1826 15 ピアノ変奏曲(4手連弾)
72b 1821-23 1823 9 歌曲
98a 1829 1829 11+4 フルート+ピアノ曲
98b   1834 9 ピアノソロ曲(作曲者による上記の曲のピアノヴァージョン)

ca.=約、vor=以前、um=頃

aとbが付いた数字は5, 6, 8, 10, 11, 72, 98の7つです。従って曲数は計14曲となります。

ここで問題となるのはaとbの意味です。aが早い時期、bが遅い時期という作曲年代順ではありません。なぜなら5, 8, 10, 11, 72は年代順ではありません。6は作曲年代順です。 98(これはどちらを先に作曲したかは不明です)。出版年も同様です。と言うことは作曲年代順としては不統一です。

音楽的完成度に関しては判断が難しいことでしょう。私見ですがaの方がbよりも優れているように思われます。しかしそれを評価する場合、個人の趣味が加わるので分類法としては公正を欠くことになります。

ページ数は一つの答えとなります。
初版のページ数(パートが別れていればその合算)を数えてみるとaの方が多くb曲の方が少ないことが分かります。おおざっぱに言えば大きめの曲がaで小さめの曲がbということにもなります。

この問題は現在ブスク氏と石原で行っている「ピアノソナタ曲集」の編纂で討議致しました。
ブスク氏はaとbは作曲年代順であるべきだという考えです。音楽学では一般的な常識だそうです。

今秋出版予定の「ピアノソナタ曲集」の中では5, 6, 8がそれに関係しています。すなわち5a, 6a, 6b, 8aの4曲です。ブスク氏は6は構わないが5と8にはaを付けたくないという考えでしたが、私の主張でDan Fogナンバー(トラーネのaとbと同じ)を遵守することになりました。その理由はDan Fogナンバーは出版物としてすでに公になっている事だし、それを引用している文献もあり混乱を来すかもしれないことを心配した結果です。

モーツァルトのケッヘル番号も研究が進むに従って初代から改訂が行われています。今後クーラウ研究における発展を考えるなら然るべき時期に作品番号の見直しもしなければならなくなるでしょう。Dan Fogのカタログの作曲年代はその後の研究で訂正しなければならない個所が沢山あります。ブスク氏はテーマティッシュ・カタログを再版する場合は訂正をするようにDan Fogの後継者(Lene夫人)に提言しているそうです。

クーラウ研究には問題点が山積しています。不明なことも沢山あります。若い研究者の現れることを期待しています。

石原 利矩 (2013.7.1改訂)